『祈結(KIYUI)』の旅

徳島・高松・輪島

第二章 高松

Chapter 02 - Takamatsu

ジョージ・ナカシマと桜製作所

高松市、牟礼。

木立の前庭を抜けると桜製作所の建屋2階にジョージ・ナカシマ記念館がある。ジョージ・ナカシマ(1905~1990)は日系2世でアメリカ生まれの世界的家具デザイナー。桜製作所は世界で唯一ライセンス生産を許され彼の家具を作っている工房だ。

「まずは記念館を見ていただきましょう」

桜製作所の二代目社長・永見宏介さんに案内をしていただいた。ジョージ・ナカシマ作品がこれだけ一堂に会している場所は世界でここだけだそうだ。どの家具もたたずまいが素晴らしい。空間にすっと解け合い、しかも自然な存在感がある。

「ジョージ・ナカシマの家具は一目見れば分かる。(略)家具デザイナーでありながら、彼はデザインしないことを目指した。大地に根ざした木々本来の姿、自然そのものの形を家具に写す。それが、氏が「木匠」と呼ばれた所以である。」

これは桜製作所の創業者・永見眞一とジョージ・ナカシマの二人の物語がつづられた一冊の本(※)からの引用だ。残念ながら永見眞一さんは2015年に永眠されたが、この本の最初の扉に、永見眞一の印象的な言葉がある。

「次の時代を生きるすべての人たちへ問う。  かけすぎる時間と、  かけすぎるコストは、  果たして無用のものなのだろうか?」

ジョージ・ナカシマとの長年に渡る交流があったからこそ、この言葉が生まれたのだろう。優れた手仕事の技術が、ともすれば敬遠され失われていくのが現在だ。大量生産とは真逆の「時間」と「手間」をかけて作られたものが、どれほどの価値と喜びを人々に与えることになるか。その意義を真正面から問いかける真摯なメッセージである。

桜製作所は1948年の創業以来、「手仕事」を大切にしながら、木の個性や性質を見極め、「木の心」を読み取ること追求してきた木工技術の職人集団である。 私たちが目指す仏壇も「手間」をかけるからこそ伝わる作り手の息吹、「良いもの」だからこそ豊かになる「手を合わせる」空間、大切にされながら時を重ね次世代に受け継がれていく、というイメージがある。桜製作所が掲げるものづくりの哲学とシンクロするところは大きい。

※ 『ジョージ・ナカシマからミナ ペルホネンヘ 永見眞一』(リトルモア社刊)

暮らしの中の仏壇、そして祈りの空間

木工旋盤やカンナ・ノミなど様々な道具たち。黙々と作業を続ける木工職人さんたちの現場。材木置き場では薄暗い空間にさまざまな種類の板が所狭しと並んでいる。いつか訪れる出番を待ちながら今は深く眠っているようだ。数々の板を前にして永見宏介社長の話も一段と熱が入ってくる。 「木は一つひとつ表情があり全部違います。だから板をどこでカットするかは、それぞれの木の心を読まないと見えてきません」 ジョージ・ナカシマや先代・永見眞一が一つひとつの木々と対話し、木の心を読み取りながら家具を作っていったように、永見社長もそのスタイルをしっかりと受け継いでいる。手間をかける手仕事の大切さを追求する姿勢に変わりはない。

工場見学が終了してから、今回の仏壇についての打合せが始まった。まずはこちらから今回の仏壇プロジェクトを説明させていただいた。いくつかのやり取りの中で永見社長に共感をいただいたのが、仏壇だけでなく、その仏壇が置かれる「空間」も併せて提案していくという私たちの考え方だった。仏壇そのものの良さや価値を分かってもらうのはもちろんだが、手を合わせることの大切さを伝えるためには、新しいライフスタイルの提案がなくてはならない。仏壇のある暮らしを現代の生活にとけ込ませるには、部屋のインテリアや仏壇を囲む空間まで提案していこうというのが私たちの考えだった。空間のネーミングは「祈りの間」。空間のデザインイメージやインテリア案も見ていただき、今回のプロジェクトが目指す意図と広がりが共有されていった。

試作品の完成

「やってみましょう!」

永見社長からのその一言で、今回のプロジェクトに協力いただけることになった。打合せはその後一気に仏壇の設計図面の検討の場となり、まずは試作品を作っていただくことに決定した。 それから約3カ月後、待望の試作品が完成した。永見社長自ら運転するクルマで徳島・ぶつだんのもり本店へ運ばれた。一堂が見守る中、梱包が解かれ仏壇が現れた。 素材はウォールナット。左右対称となった扉の木目が美しい。一つとして同じ木目はないのだから、これは世界にただ一つ存在する仏壇となる。まだ表面のオイル仕上げが途中とのことで、完成すれば木目はもっときれいな表情を見せるはずだと説明があった。今回の素材はウォールナットだが、もう一つのバリエーションとして桜も予定されており、これも楽しみだ。

「明日は北海道へ木を見に行ってきます」

お披露目と細部の検討が終わった頃、永見社長の声が響いた。実に楽しそうなその表情には、木を愛してやまなかったジョージ・ナカシマや永見眞一から引き継がれた「木の匠」としての顔があった。

第三章 輪島